くるみクラブの歴史
初心者を大切に
(桑原寛樹著「くるみ実る日」より)
ラグビーの特性は、身体の大きな者も小さな者も、足の速い者遅い者、すばしこい者、どんな人でも活躍できるところにあります。たとえ下手なチームメイトが居ても、そういうプレイヤーがいることを前提にゲームを組み立ててゆかなくてはなりません。
ところが、往々にして経験者は、下手なプレイヤーを排斥してしまいがちです。「そこが穴になる」と。たとえば、足の遅いプレイヤーがいたとします。そうすると「アイツは足が遅くてしょうがない」「球を渡すと直ぐに捕まってしまう」とみんな思いがちです。確かに、試合をやらせると、その者は球を抱えて潰されてしまいます。
しかし、その人間がいるから負けると思うのは間違っています。こういう弱点を本人はもちろん、チームメイトもよく知って、みんなでカバーしようという気持ちが一つにまとまれば、たとえミスが起きても素早くカバーに入ることが出来ます。ミスをしたものも直ぐに次の行動に移ればミスにならないのです。相手はそのミスをチャンスとばかりに突っ込んできますから、気持ちに油断が出来て、スキだらけになるわけです。そこを冷静に判断して逆手にとれば、ミスは瞬時にしてチャンスに変わるのです。彼が球を持つことは、むしろチャンスなのです。彼が球を持ったらトライにもちこめるぞとチーム全員が思えるようになれば勝つことが出来るのです。つまり身体の小さい者や足の遅いものがいてもかまわないというのが、わたしのラグビー観なのです。
人生においても同じことがいえます。奥さんがミスをしたら、夫がカバーをすればミスになりません。部下が失敗したとき「バカ野郎!」と怒鳴らないで黙ってカバーしてやる。そういう上役だったら職場のチームワークはうまくゆくでしょう。単にカバーすればミスにならないというだけでなく、ミスが起きたことによって、ミスをしなかった時より気持ちが一つになり、かえって素晴しい人間関係を築くことができる。そのことの方が大事なのです。